さかさまバニーからさかさ魔法を解く方法

よく食べよく放浪するOLの雑記ブログ

きれい

 
「みんな、きのうの夏祭りは楽しかった?みんなが思い出にのこったすてきな場面を、この画用紙にかいてみよう」
 
そう言いながら、先生がみんなに白い画用紙とクレヨンをくばってまわっていた。
 


 
昨日、明美の幼稚園の夏祭りがあった。

みんなであそんで、キャンプファイアーをしてずいぶん夜ふかししていたからなのか、今日のみんなはちょっぴりいつもより眠そうにしているのだった。
 
(うーん。すてきな場面かあ。きのうはとってもすてきな夜だったから迷っちゃうけど…なにをかこうかな?)
 
そうしてしばらくなやんだ結果、明美はクレヨンで画用紙いっぱいに色をぬりはじめた。

満天の星空の下の、キャンプファイアーの絵を描いていた。
 
「先生、できた」
 
絵はうまいほうだったし、じしんまんまんでもっていった明美なのだった。
けれど先生は絵を見て、表情をかえずに言った。
 
「明美ちゃん、きのうはこんなに星があった?」
 
明美はちょっと困って、先生の目をじっと見つめた。
 
「きのうはくもりで、星はちょっとしかなかったんじゃない?明美ちゃん、どうして星をこんなにたくさんかいたの」
 
先生はおこっているわけじゃなくて、とても静かに明美に言っていた。 明美はこんな先生はみたことない、と思って、うろうろとしばらく視線をさまよわせた。
 
「…星がたくさんあるのが、きれいだとおもったから」
 
「星がいっぱいじゃないと、きれいじゃないかな?昨日のそのままの思い出、明美ちゃんの中できれいじゃない?」
 
「…ううん。きれい。火がぶわって、パチパチキラキラしてた。みんなの顔がゆらゆら、火であかるくなって、影がくっきりしてた。星がないとか、気にならなかった。みんな笑ってて…たのしかった。」
 
「うん。先生もそう思う。星がたくさんなくても、昨日の思い出はきれいだし、とってもすてきね」
 
先生はにっこり笑った。
 
(なんか、恥ずかしい。ほんとの思い出、ちゃんとかこう)
 
明美は紙がもう1枚ほしい、と先生にいった。 先生は、明美ちゃんは絵がじょうずだから何枚でもすぐにかけちゃうわね。と言って笑った。
 


まっしろな画用紙を目の前にして、ほんとにきれいなのはたくさんの星でもきらきら飛びちる火の粉でもないとおもった。
キャンプファイアーをぐるりとかこむ、えがおのみんなの絵をかいた。空は、描かなかった。
 
「とってもすてき。じょうずにかけたね」
 
後ろから覗きこんできた先生が笑って、明美ははにかんだのだった。

f:id:xherox:20181128001949j:plain