さかさまバニーからさかさ魔法を解く方法

よく食べよく放浪するOLの雑記ブログ

ほし

 
明美の幼稚園では、年に一回お泊まり合宿があった。
みんなでおでかけして、いっぱい遊んで、暗くなったら幼稚園に戻って、みんなで教室におふとんをならべる。そうして先生にはやくねなさいと言われてはいつまでもクスクス笑う、楽しい一大イベントなのだった。
 
 
 
おでかけの帰り、すっかりくらくなった空をバスの窓越しにみながら、隣に座ったみさちゃんがいった。
 
「星をみてると、こわいかんじがする。きもちわるくて、ぞっとしない?」
 
「こわいって、なんで?おほしさまきれいだよ」
 
明美がふしぎに思って聞き返すと、みさちゃんはじっと空をみながらいった。
 
「まっくらななかでおほしさまってさみしいとおもうから。おにいちゃんがいってたの、おまえにみえてるほしは、ほんとはずっと昔…何年も、何万年も前の光なんだって」
 
「むずかしい。どういうことかわかんない」
 
「わたしもわかんない。でも、とにかく…ぜんぶ同じ場所にあるわけじゃなくて、隣同士で光ってるようにみえても、実際はおたがいが見えないくらいずっと遠くにあるんだって。だから本当は、まっくらな宇宙でひとりぼっちのおほしさまがいっぱいいるんだよって」
 
だからさみしくてこわい。
みさちゃんがぽつりと言った。
 
とっても広い空にいっぱい、仲良しそうに、あるいは競うように輝くおほしさまを、明美は今まできれいでだいすきだなあ、と思っていた。
 
けれど、そのおほしさまたちがほんとはひとりぼっちなのかとおもうと寂しくって胸がきゅっとして、口の中に空気のいっぱい入ったビニール袋がつまったような感覚がした。
 
(くらいとき1人ぼっちはすごくこわい。わたしはママやパパも先生も…みんな手をつないでくれるから安心だけど、おほしさまは誰も見守ってくれなくて、悲しいのかな?)
 
明美がみさちゃんをみると、みさちゃんはきっとにらむようにおほしさまをみていて、なんだか戦ってるみたいだと思った。
 
みさちゃんがなにと戦っているかは、わからなかった。
けれど明美は思わず、みさちゃんの手をぎゅっと握った。手を伸ばせばとどくばしょに、ともだちがいる。だからこわくないよ。
 
「みさちゃん、おほしさま、寂しいんだね。寂しいってこわいよね」
 
「うん」
 
「だから泣くんだね。雨がいっぱい降るときはおほしさまが泣いてるんだよ。ぜんぶの空からいっぱいふってくるのおかしいとおもってたけど、おほしさまの涙なら納得。だっておほしさまなら空じゅうにこんなにいっぱいいるから、みんな泣いたとしたらザーザーの雨だっておかしくない量よね」
 
「雨の日は、おほしさまいないよ」
 
「いるけど、雲にかくれてないてるの。なおきくんがこないだ、うんといやなことがあったときカーテンの後ろで泣いてたの。おなじかんじだと思う」
 
「でもなおきくん、足は見えてたね」
 
「声も聞こえたよね」
 
みさちゃんと明美は顔をみあわせてクスクス笑った。
 
 
(こんどから、雨の時もちゃんと空をみあげよう。さみしがってるおほしさまにわたしができることは、それくらいしかないけど…)
 
 
幼稚園についたとき、ぽつぽつ雨が降り始めた。
 
ぬれるぞ、いそげー!と誰かが叫んで、みんないっせいにきゃあきゃあ言いながらバスを駆け降りた。
 
 
だけど明美とみさちゃんは、走らずにゆっくりバスをおりた。
みさちゃんが目を細めてみてるのと同じ空を、明美もしばらく見上げてから、やがてふたりで歩きだした。
 
 
とうめいな水のつぶが、つないだ手をつたって落ちていくのを、きれいだと思いながらみていた。

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