さかさまバニーからさかさ魔法を解く方法

よく食べよく放浪するOLの雑記ブログ

がんばりやさん

 

明美が卒園するちょっと前、明美のクラスに"きょういくじっしゅうのせんせい"が来た。
 
ふわふわっとやさしくってみんなすぐに"きょういくじっしゅう"のみほ先生がだいすきになったし、明美たちだけじゃなく明美たちのおかあさんも、
 
「若いけど一所懸命でいい先生よね」
 
と、よくうわさしていたから、明美はいつも
 
(ママたちもみほ先生がすきみたいでよかった。いっしょけんめいが何かは、よく、わかんないけど。)
 
なんて考えていたのだった。
 
 
 
「さいごは、みんなが歌いたい曲をきめていいわよ」
 
いよいよ卒園式がちかづいたころ、たんにんの先生がみんなに言った。
 
卒園式の日にみんなで歌うさいごの曲をリクエストしてもいいーーとなれば、クラスみんなの頭にまっさきにうかんだのは、1つしかなかった。
 
「だんご3兄弟がいい!」
 
だんご3兄弟が、ちょうどはやりはじめたときだった。
 
 
 
卒園式はみんな泣かなかった。
 
とにかく、これから今よりもっとずっとおもしろいことが待っているんだと、みんなが感じていた。
みほ先生だけが、みんなが目をかがやかせている横で、ちょっとかたい表情をしているようなきがしていた。
 
 
「じゃあみんなのお待ちかね。みほ先生がピアノをひいてくれるから、一緒にだんご3兄弟を歌いましょうね」
 
式がおわってきょうしつにもどると、たんにんの先生が言った。 みんないい子に はあい、とへんじして、ピアノの音をまった。
 
ピアノは最初の音をかなでると、流れるように曲になった。
 
それでみんなぞんぶんに、最後までだんご3兄弟をうたって、大満足したのだった。
 
 
「ね、みほ先生ピアノ上手でしょ」
 
そばでみていたママに駆け寄って、歌い終わった明美はなぜだかじまんげにいった。
ママはいたずらっぽく そうね、と笑ってから、そういえば、と口にした。
 
「みほ先生、みんなが帰ってからも遅くまで残ってね、きょうのために練習してたんだって。がんばりやさんよね。明美ちゃんたちに最後、いっぱい笑顔になってほしいから、一所懸命だったんだって」
 
ーーちっともしらなかった。
夜遅くまでひとりでピアノの練習をしているみほ先生を想像したら、なんだか胸のあたりがじんとした。
 
(いっしょけんめいって、がんばりやさんのことかあ。せんせいって、さいしょから何でもできるんだと思ってたけど、そうじゃないんだ。わたしと同じで、みてるとめまいのするがくふを読んで、うんと練習したってことよね)
 
明美は自分がピアノの発表会のときに、3か月間もかけてやっと、1曲をそこそこにしかひけるようにならなかったことを思い出していた。
 
だけどみほせんせいは明美よりもうんと短い期間でかんぺきにだんご3兄弟をひけるようになって、みんなをまんめんの笑顔にしたのだから、それって魔法みたいよね、と思った。
 
(がんばりやさんってすごい。それもだれかのためにがんばるってなると、もっとすごいし…とってもすてき)
 
明美がなにかがんばったときにはいつも、みほ先生は、えらいね、よしよし。ってしてくれたな、と思い出した。
 
(あれってとってもくすぐったいけどすっごくうれしいんだ。みほ先生にも同じくらいいっぱいうれしくなってほしいな。よしよしってしてもいいよね)
 
 
教室の真ん中をみると、みんながたんにんの先生とみほ先生をぐるっと囲んでいた。
みんなさっきはちっともでていなかったのに、いまは涙がぽろぽろでてて、でもめいっぱい笑っていて、ヘンなかんじだった。
 
(みんなの涙、わたしの涙、きらきら。いろんな色にみえる。しあわせ、うれしい、さみしい、かなしい。このごちゃごちゃのこころみたいに)
 
 
みほ先生とみんながいるほうへ、明美は駆けた。

f:id:xherox:20181128002109j:plain