さかさまバニーからさかさ魔法を解く方法

よく食べよく放浪するOLの雑記ブログ

ほたる

 

明美のおうちの近くには、ほたるがたくさんいる川があった。
 
だから毎年、ほたるの時期になると地元のひとがみんなぞろぞろ集まって、ほたるがいっぱいとんでいるのをみながら静かな時間を楽しむのだった。
 
 
「パパ、なんでほたるって光るの?」
 
明美はお星さまみたいにいっぱい飛んでるほたるをみながら、聞いた。
 
「会話のかわりに光るらしい。仕組みは忘れたけど」
 
パパがまじめな顔して答えたのをきいた明美がむずかしい顔をしたのをみて、ママが笑いながらいった。
 
「おともだちを探してるのよ。で、おしゃべりしてる」
 
「今なんて言ってるの?」
 
「さあ。ほたるも、川も、木も、みんなひみつのことばをつかってるからわからない。でもおしゃべりしてるのよ。いまはたぶん、こんばんはって言ってるかな」
 
(ひみつのことばかあ)
 
ママにナイショでともだちとおしゃべりするための暗号をつくったり、なかよしのお友達同士でしか通じない合言葉をつくったりするのが明美も大好きだったし、その重要性をよくわかっていたから、明美はなるほどね。と考えた。
 
(なにか言いたいときは、きっとわたしにもわかるように言ってくれるよね。それまではおたがい、ナイショがあってもおあいこなんだからね)
 
近くの葉っぱにとまったほたるのおしりが、こたえるようにぴかぴか明滅していた。
 
 
 
「ほたるってね、きれいな川でしかいきられないんだって。せんせいがきょう、言ってた」
 
さっきまで地元の友達と、ヘイケとゲンジの早見つけ対決で盛り上がっていた妹が、横に来てじまんげに言った。
 
「こんなにおっきいほたるがいっぱいいるところ、あんまりないから大事にしないとだめって言ってたよ」
 
妹の言葉に明美はびっくりして言った。
 
「これ、ふつうじゃないの?」
 
「うん。川がよごれてると、ほたるいなくなるって言ってた」
 
「川をよごしたら、みんなしんじゃうの?」
 
明美と妹の会話をきいていたママが、言った。
 
「そう。それって寂しいよね」
 
 
 
まっくらな夜だけど、川のせせらぎと草葉のざわめきが心地よくて、明美はうっとりとその音をきいていた。
 
(宇宙みたいで、とってもきれい。)
 
くらやみで輝く無数の点滅する星をみながら、自分がふわっとまいあがって、むじゅうりょくくうかんに行ったような想像をした。
 
きらきら光るほしがそこらじゅうをとびまわっていて、まっくらだけど妹の顔もみえたし、ママやパパや、隣の家のおじさんの顔も、地元のお友だちの姿もみえた。
 
(だけどほたるがいなかったら…まっくら)
 
宇宙でぽつんとひとりになった明美は、なんにも見えなくてあせっていた。 ーーそうだよね。こんなちいさな光でも、道しるべになる。
 
「いなくなったらさみしいし、かなしいねえ」
 
妄想の世界からもどった明美は、つぶやいた。
 
 
 
「ほたるさん、ずっとここはきれいだよ。だからしんじゃだめ!」
 
「だめー!ね、おねえちゃん、わたしもほたるみたいにおしり光ったらいいのに。なんで光らないんだろ」
 
「おほしさまを飲み込んだら…光るかも」
 
でも、それってかなりヘンかも!
 
そういって2人でひとしきりくすくす笑って一息ついたとき、風の音がきこえて、はっとした。
 
 
目の前のちいさな宇宙に、そこにいた誰もが、ことばもわすれて見入っていた。

f:id:xherox:20181128002328j:plain